本研究は、農民女性の労働生活をトータルにとらえることを目的としている。すなわち、従来「労働」とされてきた賃労働、自営労働に限定することなく、家事労働を含めた実証的分析を試みようとするものである。 よって研究の中心は調査研究であるが、本年度はその準備作業と理論整理を試み、(1)諸関連資料とテーマに関わる最新の文献の収集、(2)論査対象地である岩手県沢内村と長野県丸子町についての資料整理、資料収集を行った。(2)のうち、沢内村については、これまで収集した調査資料や統計資料に基づき、実験補助のアルバイト学生の労力を頼み、調査対象地区(長瀬野地区)の女性の労働状況(農業・兼業・家事)についてのデータベースを作成した。また丸子町については、行政機関等におけるヒアリング並びに資料収集を行い、調査対象者らがおかれている地域の概況及び労働市場の把握に努めた。特に、来年度の調査対象者として予定している、丸子警報器労働組合のパートの女性労働者(農民)については、現在、東京高等裁判所において係争中の賃金差別訴訟、解雇撤回訴訟の裁判資料や裁判の傍聴、ヒアリング等を通じて、より具体的なデータを収集し、これを用いて、農民女性の生活史を分析した。これは来年度予定している調査の基本枠組の一部をなすものでもある。すなわち、地域労働市場の変動の中で、パート等非正規労働者の戦力化は、資本の戦略の要であり、企業は農民女性の(賃)労働力を活用しながらも「パート」として据え置くことにより賃金コストを削減している。これに対し、農民女性は正当な労賃を要求し、家族の生活基盤を安定させようとする。地域はこのように資本の論理と生活の論理が直接対決する場であり、今や農民女性は(賃)労働の現場において最前線にいるのである。
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