現在の「情報化」をめぐる議論の整理をおこないつつ、情報ネットワーク社会への社会学的視座の方向性を見いだすことを、本年度の研究の目的とした。それは同時に、社会学の理論的パースペクティブのなかに〈仮想社会〉をいかに位置づけるかという問題へのひとつの解答の可能性を示すことでもあった。 まず研究の前提として、内外の経験的研究を参照しながらいわゆる〈仮想社会〉のりアリティの特質を明らかにしたのち、〈仮想社会〉への社会学アプローチを、モダン・アプローチとポストモダン・アプローチと呼ばれる二つの基本的アプローチに分類・整理し、両者の基本的な論点、とりわけ公共圏の問題をめぐる対立点に重点を置きながら検討した。以上の検討を踏まえた結果、次のような暫定的結論を得た。 コンピュータ・ネットワークは「本質的にカスタマイズ可能なメディア」であり、そこでのリアリティの構成が〈現実社会〉とかかわりあう方向に向かうか、それともより〈仮想〉性を強める方向に向かうかは、決してア・プリオリに規定することはできない。 それゆえ、情報ネットワーク社会への社会学的視座は、〈仮想社会〉と〈現実社会〉との二項対立を前提とするのではなく、むしろ両者の相互浸透を捉えうる方向に設定されなければならない。〈仮想社会〉の〈現実社会)への浸透が〈現実社会〉のリアリティをより多元的なものへと拡張していく様相を明らかにすると同時に、〈現実社会〉の倫理的・政治的あるいは経済的な要求が〈仮想社会〉にいかに浸透し〈仮想社会〉を変容させていくかを追究していくことが必要になる。コンピュータ・ネットワークを媒介とした公共圏の再建の可能性という問題も、まさにそうしたリアリティのせめぎあいの場のなかにこそ、解答を見いださなければならない。
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