本研究は、上級官僚集団の役割創出・変容の解明を通して、戦後日本官僚制の役割を検証評価しようとするものである。そのため、ライフコース・アプローチに拠って上級官僚の外面的・内面的経歴を跡づけ、その所産としての役割行動を歴史的脈絡において追求した。1.『人事興信録』『全国官公界名鑑』『職員録』各年版による退官・現役上級官僚(1367名)の経歴調査を前年度から継統し、その結果をコーホート分析した。それにより、階位昇進の低速度化(課長初任37歳→43歳)と上位階位でのそれの顕著化(局長就任49歳→52歳)、退官年齢の不変性(55歳前後)、それらの省庁間類似化等々の知見を得た。2.「公務員」としての役割認知とアイデンティティ、政策過程における諸アクターの影響力とリンケージ、地域開発等戦後政策の評価等々を内容とする質問紙調査(郵送法)を、1.の対象者および追加選定上級官僚(263名)に対して実施した(7〜8月。回収数・率490、36.7%)。コーホート分析の結果、高い公務員としてのアイデンティティや誇り、経済的待遇への不満と職務の専門性や職場環境への高い満足、階位による役割認知の変異(課長補佐の政策課題の解決、課長の政策形成、局長の国家見地からの職務遂行等)、戦後官僚制に対する「行政の安定性・使命感」「長期的な政策推進」の評価、「政治家の政策力向上の期待と公正・効率的なシンクタンクである官僚制のパワーアップ志向と交錯」等々の知見を得た。なお、コーホート別単純集計表を集成した『昭和・平成期上級官僚のキャリアと役割行動に関する調査報告』(平成12年1月、全70頁)を作成した。3.質問紙調査の回答者のうち、面接調査の許諾を得た83名を対象に東京、静岡、名古屋、大阪、京都、兵庫の都府県で口述による生活史調査を実施した(平成12年2月。1人当たり2〜3時間)。現在、収録したテープの再生と生活史の再構成作業が進行中である。
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