本研究は、上級官僚の役割創出・変容の解明を通して、戦後日本官僚制の歴史的役割を検証評価するものである。そのため、1.1935〜79年間に入省した本省庁局筆頭課長以上1575人の官僚経歴を第2次的資料に拠って追跡する「官僚経歴調査」('98〜'00年実施)、2.1336名の退官・現役官僚に、役割認知とアイデンティティ、政策過程における諸アクターの影響力、戦後政策評価等を調査内容とする「郵送質問紙調査」('99年7月実施)、および、3.その回答者のうちから123名を対象とする「口述生活史法調査」('00年2月と7月実施)の、3つのタイプの調査を実施した。これらの調査結果の一端を、'00年5月の関西社会学会大会と'00年11月の日本社会学会大会で共同発表した。以下に、調査の知見の一部を列挙する。1.階位昇進の低速度化と上位階位でのそれの顕著化、退官年齢の一定性(55歳前後)、それらの省庁間類似化等々、キャリア・パターンには連続と変化の様相がある。2.上級官僚は、政策の課題形成、立案、決定の各ステージにおける相対的影響力を、「行政官僚」が第1位、「政府首脳」「与党幹部」が第2・3位であると認知する。そのコーホート間差異は小さい。3.上級官僚には、政策過程における影響力を維持して日本の政治行政を支えてきたという誇りがある一方で、政治家主導の動きのもと、自己の重みが低下しつつあるとの自己認識がある。ケーススタディの結果が映し出すのは、上級官僚の強い自負とモラルの高さであり、自己の役割を正当に評価してほしいという思いである。4.上級官僚には、戦後復興に取り組み経済再建の成果を高度成長につなげた「国士型」タイプから、低成長移行後の「政策転換」の重荷を背負い、意見の調整と根回しに諸アクターの間を駆け回る「調整型」タイプへの変化がみられる。
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