平成10年度は、山形県庄内地方と愛媛県南予地方の村落を対象地として予備調査をおこない、それぞれの地域の地域農業の概況や集落の概況および個別農家の経営状況や農村女性の生活や労働の現況を把握することを目指した。その結果、東日本の水稲地帯でも、西日本の果樹地帯でも、減反政策や農産物の輸入自由化、農産物価格の低迷といった農業危機の進行のなかで、農業離れや兼業化が顕著であった。さらにこのような事態は、農村女性の就労形態や家族内での地位と役割をも大きく変容させ、過重労働になりがちではあるが農業労働や農業経営への女性の関与を増大させ、家族内での生活や労働にかんする女性の発言権を高めていることが明らかになった。つまり農業危機は、女性の自立化という観点から見ると、逆説的ながら、その傾向を促進していることが明らかにされたのである。 本年度は、さらにこの点についてより立ち入った考察をおこなうため、庄内地方の専業的農家における若い世代の農業専従の女性を対象に、「いえ」や「むら」のなかでの地位と役割、生活と意識について詳細な聞き取り調査を実施した。現在、農村女性の「個」の確立と「いえ」と「むら」の変容という観点から、以下の問題について分析を進めつつある。 1. 農業労働と家事労働における家族内役割分担の実態を把握し、基幹的な労働の担い手であることと管理的な仕事(経営の意志決定)とのあいだに乖離がないか。 2. 労働報酬や自由に使えるお金、農地の所有名義と養子縁組、老後の経済的保障について農村女性のおかれた状況を把握し、女性が現に果たしている役割が家族や村落、社会のなかで見合った評価をうけているか、さらにそのような生活実態と法的・制度的保障とのあいだにギャップがないか。
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