平成11年度は、これまでの調査の経過をふまえて、山形県庄内地方の専業的農家の女性33名を対象とした自由回答形式の聞き取り調査の結果を分析して、以下のようなことを明らかにし、次頁に記した2本の論文にまとめた。 1.農業経営の責任者は、ほとんど男性であり、女性に関しては経営と労働が完全に一致しているとは言えないが、経営責任が、親世代の男性から対象者世代の男性に移行している場合には、女性は、夫との日常的な意思疎通をとおして経営の意思決定過程に積極的に参画している。 2.主婦権と言われる生活費の管理や自由に使える金銭を見る限り、女性の労働は家族内で評価されており、嫁の家族内地位が低いとは言えない。今日の農家の家族内役割分担は、家族内地位に応じて固定されたものではないし、異なる役割の間に上下関係をともなう位階秩序や権威の不均等な配置による権力構造は見られなかった。 3.農地の所有と農業経営(耕作)の最小単位は、労働力商品の所有者としての個人ではなく、家族成員の生活を保障する機能を果たす「いえ」であり、「いえ」の財産としての農地と「いえ」の職業としての農業は、世代を越えて継承され、家族成員に共同で利用されていく。 → 今日の「いえ」においては、農業労働についても家事労働についても、実際の作業の担当者と意思決定の責任者を一致させようとする努力と傾向が見られた。自らの行動を自らの意思で決定し、その行動の結果に責任を負うことを「個」の自立と規定するならば、「いえ」における家族成員の「個」の自立化傾向を指摘できる。「いえ」のなかでの女性の自立化は、多くの問題を孕みながらも、「家父長的」とか「封建的」と形容されたかつての「いえ」に比して、かなり前進していることが明らかにされた。このように、今日の「いえ」は大きく変化し、かつての「いえ」と断絶している。だが、「いえ」の本質的な機能は維持されているのである。
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