本研究は、「児童自立支援施設(旧教護院)における夫婦小舎制の展開」を<もの>を通して把握しようとするものである。建物をはじめとする居住環境は<もの>であるが、日々の<生活>や<教育>を具体的に支えており、処遇をこれまでとは異なる観点で捉えることができる、という視点に立っている。方法の一つは、北海道家庭学校と岡山県立聖徳学校を事例に、旧・現職員に建物図面を示し、そこでどのように生活してきたのかを聞き取り、それを図面に整理し、実態の把握を行った。二つには、事例を踏まえ、全国の児童自立支援施設に働く職員を対象に、援助形態や職種などの基礎項目及び労働状況、職場の人間関係、児童生活状況などに対する意識を中心にしたアンケート調査を行い、夫婦小舎制と他の指導形態との違いを把握した。 結果、対象施設で見る限り、家庭のLDに相当するホールは、食事やくつろぎ、勉強など、生徒のあらゆる生活の場であると共に就寝する場にもなっており、想定される機能とは異なる使い方がされていた。また生徒居室や配膳室は、生活自立を援助するには狭いこと、湿気や夏の暑さなどの衛生面、トイレや浴室が死角になる、などの問題があり、職員家族にはプライバシーが確保しにくい、狭いなどの問題がみられた。が、多くの職員は、良好とは言えない居住環境の中で、夫婦小舎制を肯定的に捉えていた。後者からは、夫婦小舎制に勤める職員の方が、仕事に積極的なモチベーションを持ち、児童から直接励まされたり慰めを受けることが多い、などの結果を得た。 児童自立支援施設の目的を精査し、夫婦小舎制にふさわしい居住環境作りのあり方を再検討し、問題を抱える生徒にとってだけでなく、働く職員とその家族にも「生活の場と実感できる場」としていく必要性が強く存在する。
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