本研究は、投機的な外部資本による開発ではなく、環境保全的な農林業を基軸にした持続性のある自立した循環型地域杜会形成の条件の考察を目的とするものである。 そのために、本研究では、有機農業を柱に、地域資源を生かした地場産業やエコ・ツーリズムなどを組み合わせて地域の再建・活性化を図っている5地域(島根県奥出雲地域、愛媛県明浜町、宮崎県綾町、鹿児島県屋久島、山形県長井市)を選定し、主として現地におけるインテンシブな聞き取り調査と資料収集によって実態を把握する方法をとった。 なかでも、有機農業運動が地域的広がりをみせている島根県奥出雲地域における木次乳業(酪農農家が設立した会社)を拠点とする運動と、愛媛県明浜町における柑橘農家集団「無茶々園」の運動の展開を中心に分析を行った。その結果、有機農業を基軸とする地域づくりの運動によって、それぞれ地域において生業と自治の担い手が形成され、さらには「親密圏」ともいうべき新しい質をもった関係性にもとづく「地域共同社会」と、都市とのネットワークが形成されつつあった。 それぞれの運動の展開過程は、循環型地域社会形成に向けて、社会経済システムの変革の方向性が都市と農山村との連携の方途を示唆していた。
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