本研究を通じて、インタビューを行うことができた日本人駐在員の数は55名である。彼らの駐在先、駐在目的、駐在期間はバラバラで、しかも同じ会社で同じ時期に派遣されていても、みずから抱える現地でのミッションや現地社会との関わり合い方によって、その現地従業員との信頼形成についての基本的な考え方も異なっている。しかし、これらの多様性を射程に入れながらも、現地法人立ち上げの歴史を時系列的にトレースしてみると、次のような段階があることが観察できる。 第一に、現地法人が制度化されるまでの段階。この段階では、日本人駐在員は現地従業員とはヒエラルキカルな関係を持っている。日本人駐在員は現地従業員に仕事を教え込もうと懸命で、現地従業員も仕事を覚えることに熱中しているから日本対現地といった問題の構造は発生しない。他方で、日本人駐在員は現地のビジネスパートナーに一部の業務を委託し、組織として体裁が整うまで特に大きな注文を出さない。 第二に、現地法人の制度化がほぼ完成する段階。この段階になると、日本人駐在員も定期的な移動を通じて現地に派遣され、仕事を覚え始めた現地従業員との間に摩擦が生じることになる。ビジネスパートナーへの注文も多くなり、表面的な制度化とは裏腹に、多くの問題を抱えるようになる段階である。 第三に、現地法人の制度化が揺らぎはじめ、より高度な組織形態へと変化する段階。この段階で再び第一段階で見られた日本人駐在員と現地従業員の関係が復活する。ただし、ここでは日本人は能力主義を前面に掲げるなど、その「師弟関係」は不安定である。ビジネスパートナーとはパートナーシップ解消を含めた、新たな関係が構築される時期である。 実際のインタビューでは、この第一から第三の段階が交錯して現れている。ただ、現在はインタビュー記録を整理している段階で、詳細な分析については今後の展開を待たなければならない。
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