冷戦の終焉と南アフリカにおけるアパルトヘイトの崩壊は、南部アフリカに大きな影響を与えつつあることに関して、近年の研究状況についてまず検討した。全体として、変化の諸相、例えば人の国際移動の活発化、資本と商品流通の増大、地域協力の進展などについて着目されている。その際、南アフリカにおける政治社会の激変を主要な要因としてとらえることが多い。しかし同時に南アフリカ以外の南部アフリカ諸国の政治、経済、社会の変化という側面からとらえる議論も多く、その場合、各国別の分析の形をとっている。 南部アフリカ諸国においては、1980年代後半以来のいわゆる民主化と、IMF主導の構造調整の影響が重要であることがわかった。しかも民主化と経済改革は相互に影響しあいつつ進行した。しかし依然として危機的な経済と構造調整による都市低所得層へのしわよせは、政治的にも不安定化をもたらす傾向にあり、制度的に脆弱な民主主義への脅威となっていることが判明した。 このように南部アフリカ地域の構造と、域内の諸関係は、内外の変化により新たな状況を生みだしつつある。しかしまた歴史的な関係の一層の進展という面が基本的にあることも再認識された。即ち19世紀後半以来の南アフリカを中心とする地域経済圏の成立と展開の延長上に現在の南部アフリカ地域があるということである。このてんからすれば、こうした歴史的背景をもつ南部アフリカ諸国が、平和と貧困の解消のためにどのように協力しあっていけるか。このことが重要な課題であることが判明した。
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