南部アフリカは南アフリカを中心とした一つの地域圏として存在している。経済的のみならず歴史的、政治的、文化的にもこの地域は相互に不可分な関係をつくり上げてきたため、社会構造とその変化も南部アフリカという地域、およびこの地域全体と各国社会との関連の中で理解されなければならない。その上で1990年代における民主化と経済改革について、ザンビアを事例としてとりあげた。民主化の背景は何か、経済改革の社会的影響はどうであったか、経済改革と民主化の関係はいかなるものか。他のアフリカ諸国における民主化と同様、ザンビアの場合も冷戦構造の弛緩と世界的な民主化の潮流という国際環境の変化が大きな要因になった。経済発展の結果ではなく、経済危機の深刻化が人々の不満を強め一党制批判を加速させた。このことは確かに社会改革ではなく、複数政党制の復活という制度的な面に民主化をとどまらせることになった。しかし国内的要因も民主化において無視できないことを示している。もっとも経済危機への対策として実施された構造調整はIMFや援助国により押しつけられたという面があり、構造調整がかえって一気に人々の生活の困窮化をもたらしたというてんでは社会変動の外発性を否定できない。グローバル化の時代におけるアフリカ社会の変化を示す実例であった。新政権は政敵を選挙から排除するために、市民権取得規定を厳しく定めた。このように民主化に伴い国籍と市民権をめぐる問題が新たな政治性を帯びて議論されるようになった。
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