当初、共通尺度によるコミュニティの比較研究を目指した。しかし、異文化間の比較研究は困難である。しかも、コミュニティという複合機能を有する対象の比較研究は、とりわけ困難である。今回は4カ国におけるコミュニティ比較研究自体に目立った成果がみられなかったが、研究過程において明確になったコミュニティの特徴把握と方法論上の成果がみられた。それは、それぞれ個別のコミュニティに関する固有の諸特徴の把握がきわめて重要であるということと、フィールドワークの重要性である。 特に今までおろそかになっていたイスラエルのコミュニティに関してかなり精力的に理解を進めた。そして、世界中に分布しているユダヤ人コミュニティの特徴の一端を把握することができた。その特徴は、自立した個人を最大限に生かした権利義務関係のはっきりしたコミュニティであるという点である。 マレーシアのコミュニティについては中国人のコミュニティとの比較も視野に入れつつその特徴を抽出することができた。その立地条件は、海岸の近くにある平たんな場所で列村である。それは、個人対個人の関係の束としてのコミュニティの特徴を有する。 タイ国のコミュニティは、マレーシアと同じく塊村であっても個人と個人の関係の束としてのコミュニティが形成されている。 日本のコミュニティは塊村であって、しかも集団主義的な結束も堅いコミュニティである。 こういったコミュニティの特徴は共通尺度ではなく、むしろ固有の論理として追求すべきものである。しかし、これは共通尺度ではコミュニティの特徴が把握できないという意味ではない。困難なだけである。
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