研究概要 |
本研究は、環境社会学の新たな理論構築のために、近代産業国家における環境主義の構造を国際比較の視点から明らかにすることを主たる目的としている。特に本研究では、グローバル化する環境主義を歴史的・文化的・社会的背景との関連で比較分析した。とりわけ、これまでの文献研究と歴史的事例研究を再検討して、日本・ドイツ・米国での環境運動の成立、発展、衰退過程を比較分析した。その結果、近代産業社会の成熟した発展段階に共通した社会現象として、都会の環境主義エリートは、その社会的政治的パワーを背景に原生自然地域の完全保護を求める傾向があることが明らかになった。しかし、その環境保護運動においては、環境エリート性がもつ問題から生起する保護地域住民に対する環境的差別の問題点が指摘された。 そこで、本研究では日本ナショナルトラストを事例として取り上げ、その環境運動の歴史的展開に関する文献研究と調査研究を行った。特に知床ナショナルトラスト運動の20年間の運動理念の変遷と活動の変化を、二次的な資料の分析と斜里町ウトロ住民365戸の意識調査とナショナルトラストの関係者へのインテンシヴなインタビューを用いて研究した。その結果、同運動の持続可能性には、地域住民の主体的参加や一般国民の支援のほか、行政やマスコミの対応が大きく影響していることが実証された。また、自然との共生を可能にするためには、社会集団間の相互理解と協調が不可欠なことも明らかになった。特に,ウトロ地区全世帯を対象にした「知床の自然と住民生活調査」は、85.7%の回収率をえ、そのデータ分析の結果、環境エリート主義の限界と、持続可能な環境運動のためには、なによりも当該地域での自然保護と地域住民の生活向上との同時達成をめざすことが重要であることが明らかになった。
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