日本社会の「成熟」に関わる理論研究の一環として、ヴェーバーおよびグラムシの社会理論を後発資本主義国における「市民社会」形成の観点から検討を行った。その結果、ヴェーバーの『支配の社会学』における「正当性」論が、ヴェーバーの置かれた当時の社会状況を反映して、大衆とその指導という観点からなされていること、またその関連で諸個人の「主観性」にヴェーバーが焦点を当てていることが明らかになった。とりわけ、人々のあいだで「通用していること(Geltung)」と「妥当すること(Gultichkeit)」とをヴェーバーが区別していることは注目に値する。また、グラムシのヘゲモニー論では、「常識」といったような民衆の「知」のあり方をふまえ、それを支配の文脈に乗せていくという思考が見られる。これは、ヴェーバーの「正当性」論が被支配者と支配者との相互の内面的了解に依拠したものであることに対応している。今後、ヴェーバーとグラムシの政治思想の同時代的考察を通じて、大衆社会における政治指導と市民社会形成の連関を追究する予定である。 現在の日本社会における市民社会形成の研究は、「社会文化(Soziocultur)」の概念に基づいて、「社会的なるもの」の領域に関する理論的解明を行い、国家領域、経済領域に対するこの社会領域の果たす機能について考察を行った。とくに、この点において、我が国より進んでいるドイツの社会の事情の研究を行った。アメリカのNGOの活動にあたるドイツのイニシアーティヴによる地域社会を拠点とした活動には、今後の日本における社会的な活動を考えていく際に重要である。この地域を拠点とした活動という点で、日本の都市のみならず、比較的地域の共同性が強いとされている農村における状況の把握を行う必要から、庄内地方で本格的な現地調査を行うための予備調査を行った。
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