平成11年度は、昨年度に引き続き、熊本水俣病事件についての資料の収集、関係者からの聞き取りをおこない、以下の諸点の解明をめざした。 (1)加害企業としてのチッソに関して 1.工場および本社の人々に水俣病に対する認知状況 2.工場における幹部層の人間関係と決定過程 3.外部的隠蔽工作と思われる出来事の実態 (2)制御主体としての行政に関して 1.チッソが加害源であることへの公式確認の遅れ(厚生省、経企庁、通産省等) 2.チッソに対する刑事・行政処分の回避(熊本県警、熊本地検、水産庁) その結果、以下の点が明らかになった。 1.チッソ内部の部門や個人が、企業行動の結果引き起こされた事態を、企業自体が解決すべき「問題」というより、外部との「紛争」との認識をもって対処した可能性が高いこと。 2.通産省の適切な指導・監督が必要であったが、チッソからの情報に依存していたがゆえに、やはり「紛争」との認識を共有することとなり、結果としてチッソの対応を追認する役割しか果たさなかったこと。 これらの知見については、2本の論文として発表した。 また、水俣病事件の知見をアジアの産業公害の問題の制御に生かすための予備作業として、アジアの産業公害における企業の行動に関する基礎的な資料の収集をおこなった。
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