本年度は、昨年度までの研究成果を踏まえて、熊本水俣病事件の加害企業チッソとフィリピンにおける日系企業の行動との比較分析をおこない、その結果をまとめた。 (1)熊本水俣病事件の資料収集と聞き取りの継続 本年度は、ます熊本水俣病事件についての資料の収集、聞き取りの補充をおこない、以下の諸点の解明をめざした。 1.加害企業としてのチッソに関して 工場においてなぜ排水を改善する動きが取られなかったのか 2.制御主体としての行政に関して チッソに対する刑事・行政処分がなぜ回避されたのか(熊本県警、熊本地検、水産庁などを中心に) (2)フィリピンにおける日系企業の行動に関する資料の収集と分析 他の研究費などによってフィリピンにおいて実施してきた調査と、収集資料などから、日系企業の関係した公害問題における企業行動について考察した。 (3)比較分析-研究のまとめ 上記の(1)(2)を踏まえて、両事例の比較分析を試みた。そこから導き出されたのは、以下の点である。 1.行政による公害規制が十分機能していない状況において、企業は外的な圧力が強くない限り、自ら改善のための行動をとる可能性が少ない。 2.その際、もっとも効果的なのは社会運動による圧力だが、企業城下町に近い状況では、地元において効果的な運動を組織化することは、非常に困難である。 3.したがって、60年代後半以降の水俣病患者の支援運動のように、マスメディアも利用しつつ、全国的に(場合によっては海外も含む)世論を喚起することが、重要な意味をもつ。
|