本研究では、熊本水俣病事件についての資料の収集、関係者からの聞き取りとともに、アジア地域における環境問題に対する企業(特に日系企業)行動に関する基礎的な資料の収集をおこなった。そして、第1に、熊本水俣病事件における加害企業チッソの行動を、その組織成員のレベルまでおりて解明するとともに、それを制御すべき行政および司法機関の行動についても検討を加えた。その結果主として明らかになったのは、以下の2点である。 (1)高度経済成長期の日本において、通産省をはじめとする行政だけでなく司法も、公害問題に対する統制機関として機能しなかったこと。むしろ、企業の行動を正当化する役割を果たしたこと。 (2)同様に、それらの代替的役割を果たすべき社会運動も、マスメディアの報道がほとんどなされなかったこともあって、地元においても、また全国的に見ても、ほとんど組織化されえなかったこと。 第2に、現代のアジア、特に焦点を当てたフィリピンにおいても、当時の日本に類似した状況が見られた。 (1)環境問題に対する行政及び司法の統制機能は未発達で、抑止・改善に向けた役割は期待しにくいこと。 (2)メディアによる報道はなされないわけではないが、運動も職業の一種として機能しがちで、外的な働きかけによって容易に切り崩されてしまうこと。したがって、国内外、特に海外からの資金面も含めた支援による運動の活性化、持続が重要であるとの知見が得られた。
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