本年度は、主として幼児期から児童期にかけての子どもの絵画作品の分析をとおして、イメージの生成過程を考察した。 この間、5月23日、9月26日、11月28日、2月27日に4回の美術教育研究会を開いた。保育園、幼稚園から小学校、中学校、高等学校、大学までの先生が計80人ほど参加し、15の実践報告を検討した。幼児教育研究者、心理学者、画家などがそれぞれの実践と作品に対し、多面的角度から討議し考察した。私は、意識的イメージと無意識的イメージの生成過程という観点から分析と考察を試みた。これまで以下の2つの課題が焦点化しており、具体的な画像分析を行っている。 1 幼児の造形原理の生成とイメージの関係 従来の自由保育による自由表現の実践方向に対し、あえて5歳児に「はさみ」や「消火器」などの課題を与え表現させるという実践から導き出される問題として次の点がある。この発達段階での課題設定は、普通、感情のこもらない表現として軽蔑されるが、この実践からは、子どもが意識的に物に集中し、即物的にイメージを形作るという意識レベルでの造形原理生成のプロセスをみることができる。そして、はさみという物の造形的面白さ、消火器のもつ色のコントラストと擬人性、さらに触覚的新鮮さなどの影響も解明しなければならない。 2 素材とイメージの生成の関係 小学校5年生段階で、筆による絵画表現と刀で刻み刀で表現する違いから表れてくるイメージの質の違いの問題。平面と立体でのイメージの違いに対し、平面でも素材によって違いのあることを解明しなければならない。 なお、8月25日に奈良教育大学の教育資料館を訪ね、素材と表現についての歴史的資料をみるとともに、梶田幸恵教授からこの問題についての意見を聞いた。
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