平成11年度は、「ポストモダン」を中心概念として、アメリカ進歩主義教育期と現代における教育改革や人間形成の諸側面を検討した。そのさい、ポストモダン時代における教育改革の課題を明らかにするために、「公共的空間」としての学校や教育の意義を考察し、「公共的知識人」を育成する教育を追求することによって、教育や人間形成における「公共性」の理念を再検討することに留意した。 その具体的な成果としては、第一に、進歩主義教育期におけるデューイとリップマンによって繰り広げられた「公共性」論争を取り上げ、コモンマンがもつ知性の信頼に根ざした民主的知性主義と民主的エリート主義による教育観の相違について検討した。 第二に、現代アメリカの批判的教授学を代表するH.ジルーの「越境教授学」の特徴と課題を検討することにより、多文化教育が提唱する「ハイブリッド・アイデンティティ」の特徴や、生徒・学生の学習意欲を高めるためのカルチュラル・スタディーズとの融合の動きなどについて考察した。 第三に、現代アメリカ教育改革とわが国のそれとの比較考察を行うことによって、「選択・基準・公共性」の考え方の違いについて検討した。そこでは、モダン・ポストモダン・伝統という複数の教育様式が錯綜するなかで、参加関与を求める「クールな学習環境」の特徴や、越境的自己におけるアイデンティティの課題などについて論議した。
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