平成12年度は、アメリカ進歩主義教育期における公共的関心の形成についての理論的展開を検討することによって、その理論的枠組が現代における教育改革と公共性の育成に関する論争にどのような影響を与えているかを究明した。 今年度の具体的な研究成果としては、第一に、進歩主義教育期におけるジョン・デューイとラインホールド・ニーバーによって繰り広げられた「公共的関心」の形成をめぐる論争を考察した。これによって、公衆のもつ社会的知性を信頼するデューイと、参加民主主義による公共的関心の形成は非現実的であり幻想であると批判するニーバーの対立は、現在の教育改革論議にも継承されていることを明らかにした。 第二に、ポストモダンの「多元的重層的アイデンティティ」形成の理論が提起する課題を考察することによって、モダン・ポストモダン・伝統というパラロジカル(重層言説的)な理論的展開に基づいて、新たな人間形成の理論を構築する可能性を検討した。 第三に、わが国で現在進行している教育改革の背後にある理論的課題を掘り下げることにより、多様な関心・視座・価値の構築に関与できる「公共的想像力」育成のための教授学的方法やその具体化のための課題について検討した。
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