本研究は、1970年代以降、我が国において中高年層男女がいかに変化してきたのかを、職業経歴と家族歴の両面から検討し、さらに教育機会の人生全体への拡大がどのように関連しているのかを具体的なデータ分析によって明らかにしようとした。また、アメリカの中高年層についても同様のデータ分析を行い、実証的な日米比較研究を試みた。これは、今後の生涯学習システムを考えるための基礎的な資料を提供する。本報告書には、研究成果として三つの論文をおさめている。第一論文(「現代福祉国家の類型とライフコース」)では、OECDの労働力統計を基に女性と高齢者の就業について、日本、スウェーデン、アメリカ、ドイツにおける1970年代以降の動向を比較した。その結果、日本の独自性がむしろ1970年代から強まっている点が明らかになった。また個票データを用いた日米比較では、女性の場合、日本の変化が大卒女性の一部に限定されていること、高齢者では、日本では経済的には比較的豊かな不就業層を生み出していることが明らかになった。第二論文(「アメリカにおける家族変動」)では、戦後のアメリカ社会における家族の変化について、既存統計と研究の整理を行った。とくに現在のアメリカでは、パートナー関係の満足感や達成感の基準が個人主義化しており、それが家族の変化の背景にある点を指摘した。転職が繰り返され、家族歴が複雑化し、成人層の就学が高まることは、人生の満足感に対する個人主義的判断基準が深く浸透している結果だという点を強調した。第三論文(「高度成長期以降の職業・家族・教育」)では、成人男性と成人女性の学歴と職業経歴の関係ならびに高齢者における不就業層の地位を対象にして、1970年代半ば以降の日本社会の位相を検討した。女性や高齢者の変化に対応して、教育の機会も個人を基準に人生全体に拡大する傾向を指摘した。
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