本研究の目的は、芸道の継承教育におけるノン・バーバルコミュニケーションについての具体的検証にある。すなわち、カンやコツの獲得を主体とした芸能の伝承内容(教授内容)がノン・バーバルな方法・形態によってどの程度正確に伝えられているのか、正確に伝えられているとすればその核心は何なのかを明らかにすることである。「継承教育」(それを構成する口承の教育あるいは口伝による伝達行為を含めて)の実態を探るに残された道は、家元クラスの教授場面の観察・分析かあるいは実際に口承・口伝による継承教育を行なっている分野でのその場面の観察・分析ということになる。 本研究では、前者を研究分担者の畑野裕子が担当(「日本舞踊の継承教育におけるノン・バーバルコミュニケーションの実実証的検証-山村流(上方舞)の現家元六世山村若氏へのインタビューを骨子として-」)し、後者を研究代表者の安部崇慶が担当(「仏法伝授におけるノン・バーバルコミュニケーションの役割-真言宗の四度加行を事例として-」)した。安部論文では、(1)芸道における継承とその意味、(2)芸道と真言密教の関係、(3)灌頂と四度加行の起源と意味、(4)現在の四度加行と口伝の実際、(5)仏法伝授におけるノン・バーバルコミュニケーションの意味と役割、の五点からノン・バーバルコミュニケーションの実証的アプローチを試みている。畑野論文でも(1)インタビュー、(2)上方舞、(3)山村流の稽古、(4)芸道の啓継承、四点から家元クラスの「継承教育」の実態を実証的に検証している。
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