研究実績の第1は、頭足人型の理論的説明に長年適用されてきた主知説の解釈の可変性とその問題点について明らかにした。その結果、主知説は創造的想像力までも「知っていること」に組み入れてしまい、都合の良い解釈の可変性を生じさせ、結局は誤った認識と混乱を招いたと言える。例えば人間描画をその幼児自身が記憶したとき、その絵は「見たこと」なのか「知っていること」なのか主知説は答えることができない。 第2は、幼児の頭足人型に関する先行研究を概観しその問題点を洗い出した。頭足人型の構造と本質に迫るための基礎とするため、先行する14の頭足人型研究の問題点を探り、これまでに3編の論文を発表した。今年度は、W.L.Brittain(1979)、鬼丸吉弘(1981)、林健造(1987)、長坂光彦(1989)、M.V.Cox(1993)の研究の問題点を考察した。その結果、研究者によって頭足人型の定義が異なることが明らかになった。 第3は、特定幼児の縦断的事例研究から頭足人型の変異性と構造を明らかにした。先行研究で典型的だとされている頭足人型の2タイプが、幼児の人間描画に高い頻度で発生するのかどうかの詳しい検討をするために、事例研究から頭足人型の構造と変異性に関して考察してきた。今年度は、幼児の頭足人型の連続描画に見られる対象の重要度による描き分けについて考察した。その結果、幼児は、自分が作り出した頭足人型のバリエーションを対象人物の重要度に応じて描き分けることが明らかになった。
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