本研究は、近世社会の家族の中で展開される日常的営為において、子どもの労働がどのように位置付けられていたのかを考察することにより、近世における子どもの存在状況ならびに子ども像の特質を明らかにすることを目的とする。 研究の視点は(1)日常の家族労働において、子どもの労働はどのように期待され、(2)それは家族を中心とした具体的な生産プログラムの中にどのように位置付けられているのか、(3)家族内労働に子どもを参加させる大人の意識の教育性はどのようなものであり、近世社会の教育的思惟のなかにどのように位置付けられるのか。以上の三点である。 本研究の基本的な研究方法は、文献史料に基づく実証的方法であり、史料収集が必須の作業である。三ヵ年計画の二年次にあたる本年度は、昨年度収集した近世文芸作品、教訓書などを対象に、そこに現われた子どもの存在状況及び労働に関する記述の分析をすすめる一方、労働と子どもとの関わりがより明確に伺える近世の農書を収集し、その分析をすすめている。一例として文化年間に、大洲藩士の井口亦八が農民の厳しい労働生活を共感を込めて記した農村生活の見聞記を見ると、「おとこ、おうな、老、ワかき年の齢にしたかひ相応のいとなみをしぬ」、「老若き其ほどほどになす業もいとしけけれやしつの世渡り」(『農家業状筆録』文化年間)とあり、近世農業が女性や老人、子どもの労働力を必須の前提とし、家族全員がそれぞれの仕事に従事することで経営体としての家の運営が可能であったことが知られる。このような記述を手がかりに、家業とのかかわりに注目して子どもの労働の諸相をとらえ、伝統社会における子どもの存在状況と子ども像の解明をすすめている.
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