1.平成7年1月(小学5年)と平成10年9月(中学3年)の2時点における同一児童生徒の学力及び生活実態の比較検討については、すでに昨年の学会で発表したが、今年度も引き続いて、6月に日本子ども社会学会大会において「学力と自尊感情-同和地区児童生徒を中心に-」と題して報告し、10月には日本子ども社会学会大会において「学力問題へのアプローチ(4)」と題して報告した。(1)小学5年時には見られなかった地区・地区外間の学力格差が中学3年時に顕在化すること、(2)小学5年時に地区・地区外間に見られる格差が中学3年時の学力に影響を与えていること、(3)同和地区の子どもたちは、自分専用のテレビ所有率の高さなどに現われているように、消費社会の影響を地区外以上に強く受けていること、(4)地区では、子どもの生活への親のコントロールが地区外以上に早い時期から及ばなくなっていること、(5)小学5年時の地区の子どもたちは「自己表現への自信」が低く、それが中学3年時の低学力に影響を及ぼしており、自尊感情のあり方が学力向上と無関係ではないこと、などが問題点として挙げられる。 2.調査研究全体については、3年間の総まとめとして、本年3月に研究成果報告書を完成することとなっている。同和地区というマイノリティの問題とともに、今日社会階層と学力の関係が議論される状況に鑑みて、階層の視点からの学力問題へのアプローチをも含めるため、成人の知識・能力に関する調査研究の成果が、この報告書の中に取り入れられている。学力問題については、階層とマイノリティという2つの側面を統合する視点が必要であると考えるからである。この点についての理論的検討は、原田彰「『学力問題』へのアプローチ-階層とマイノリティの視点から-」(日本子ども社会学会編『子ども社会研究』第6号)の中で試みられている。
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