19世紀中葉から20世紀前半にかけてのオックスフォード大学における労働者成人教育運動は、ベリオル・カレッジの知的伝統に棹さすオックスフォード理想主義学派の人々によって担われ展開された。イギリスのエリート教育の牙城とされるに至るベリオル・カレッジは、同時にまた労働者成人教育運動の本拠ともなったが、その主たる要因は、オックスフォード理想主義哲学のなかに、知識人・大学人の社会的責任を重視し、行動する知識人、市民的学者を産み出す思想が蔵されていたからであった。 本研究では上記のような問題関心に基づき、1870年代の大学拡張運動の始まりから1920年代におけるチュートリアル・クラス運動の最盛期までの時期の、B.ジョウエットからA.D.リンゼイに至るオックスフォード理想主義学派の労働者成人教育運動への関わりを、思想と運動・実戦の両面から具体的に跡づけようとした。 まず19世紀中葉から20世紀前半にかけてのオックスフォード大学をめぐる改革の状況を踏まえつつ、労働者成人教育運動に関与・参画した一群のオックスフォード理想主義学派に連なる人々を特定し、次いでかれら一人一人の思想と行動に関する資史料を収集・整理して分析を進めていった。そして、B.ジョウエット、T.H.グリーン、A.トインビー、E.ケアード、R.B.ホールデンたちの、労働者成人教育運動への具体的関わりとその思想を明らかにするとともに、かれらが一つの伝統と系譜を形作っていることを論証した。
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