本研究は、タイの教育とりわけ公民教育の地方分権の進展状況について、実証的に明らかにすることを目的としている。つまり公民教育政策がいかに地方分権化していくかのプロセスのメカニズムを解明することである。研究方法としては、まず、理念、制度レベルの実態に関する分析である。つまり、法律、政策、計画、カリキュラムに規定されている公民教育、地方分権化に関する諸規定、内容の分析から、理念、制度を明らかにした。次は、実態、意識レベルの調査研究である。県・郡・学校群の長、教師、児童に対して実施した意識調査から、各レベルでの意識を把握し、制度と意識のレベルの比較を通して、地方分権化の定着度を測定した。 研究結果は、まずどのレベルで定着しているかに関しては、「学校」において最も定着していた。そしてその主体は「教師」であった。またどこに問題が発生していたかについては、教育行政機関の機関長と現場教師との間には、いくつかの点において意識の違いがみられた。次に、地方分権化する際の問題としては、社会問題、国民の理解不足、予算不足、職員の能力不足が分権化の障害となっていた。そしてこれらの問題は、政治、経済、社会、文化におけるタイ社会がもつ構造そのものに問題があることが明らかになった。最後に問題点をどのように解決するかの方法については、地方分権化の問題解決には、法律の整備、権限の委譲、政策決定への住民参加、委員会方式、学校の独自性発揮、セミナー、ヒアリング、マスメディアによる国民の理解の向上、予算の確保、職員の研修、学校と社会の連携、義務と役割の徹底、倫理・道徳の教育、犠牲の精神、公共人の育成、学校が手本となること、教師が手本となることなどの方法が明らかとなった。
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