研究概要 |
原理的研究の側面では学校選択制度を支える原理の多様性について考察した.市場原理の有効性についての教育制度への単純な適用として競争のもたらす効果を強調する学校選択と、学校の政策決定を専門家の独占状態から解放する仕組みとして親の学校選択の自由の機能を把握する抑制と均衡(checks and balances)の原理に立つ学校選択の対比的な検討を行なった.わが国の公立学校制度改革にとって有効性を競い合っている二つの学校選択制度の事例をこの原理的理解に即して把握するならば,品川区を初めとして東京都において広がりつつある通学区域を超えて自由な就学を可能にする学校選択制度は前者に属するものであり、藤沢市などで先駆的な宇実験的運動が始まるかに見える日本版チャータースクールの制度は後者に属する学校選択制度の一例である. 比較研究の側面では、ロンドン市ワンズワース地区における学校選択制度の事例の考察を通して,市場原理型学校選択と抑制と均衡原理による学校選択との対比の有効性を検証した.抑制と均衡の原理に立つコントロールド・チョイスを主張し、LEAを廃止せず、積極的にその指導性を発揮してきたワンズワース地区の学校選択と、これに隣接する地区における市場原理万能型の学校選択とでは正反対の結果を引き起こしている.前者においてはほぼすべての学校が活性化に成功したといえるのに対して、後者のケースにおいては,学校の状況は極めて失望すべきものとなっている。教育行政の指導性の適否が学校改革の成否を分けており,そうした教育行政の指導性の意義づけの差異は学校選択の原理の差異を反映したものとなっているというのがこの事例研究における結論である.
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