ロシア帝国の国制と社会の編成を特徴づけた民族、身分、性という三つの座標軸に即して、帝制期の各種中等・高等教育機関について、システム全体の編成上の特質及び、各種教育機関の構造と社会的機能を明らかにした。 今年度、特に重点的に研究を行ったのは女子高等教育の概況の解明と、女子高等専門教育、特に女子医学教育の展開課程である。これらについて、以下の諸点を解明した。 1.大学タイプの女子高等教育機関である「女子高等課程」の設立・普及の経緯、学生数の推移と学生の社会的構成、卒業後の進路、学生の日常生活等の社会史的事項、および女子高等教育をめぐる新聞・雑誌などにみられた社会的攻防、女子専門職者への社会的需用の高まりと女子高等専門教育機関の整備の概況 2.女子医学教育機関である「女医課程」、「女子医学高等専門学校」の設立・存廃の経緯、露土戦争(1877-78年)における従軍女子医学生の役割と従軍医療機関の現実、女子医学教育をめぐる新聞・雑誌などにみられた社会的攻防、専門職としての「女医」の成立とその資格化 3.沿バルト諸県の帝国内の位置と文化的役割の全般的把握、当該地域におけるロシア化政策と女子高等教育機関(ロストフツェフ私立大学、ユリエフ女子高等課程)設立と学生構成等の社会史的事項、学生生活の実態 これらは、以前行った女子中等教育に関する成果とあわせ、来年度中に著書として刊行予定である。 技術系高等教育機関については、学生数の動態等の概略的事項を解明して「報告書」に掲載し、また19世紀末以降の専門職化の進展と技術系教育機関の拡大の関連を解明したが、個別学校史は資料収集に留まった。正教神学大学については、18世紀ロシアの啓蒙期までの学術・文化上の位置づけを解明した。
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