本研究では、ロシア帝国の国制と社会の編成を特徴づけた民族、身分、性という三つの座標軸に即して、帝制期の各種中等・高等教育機関についてシステム全体の編成上の特質及び、各種教育機関の構造と社会的機能の解明を目的に研究を行い、以下の成果を得た。 1.18世紀のピョートル大帝の改革から19世紀初頭の学制整備を経てロシア革命にいたる帝制期ロシアの教育システムの特徴を「身分制原理からメリットクラシーへ」として定式化し、身分制原理に関する学説史的検討、19世紀初頭から20世紀初頭にいたる男子中等・高等教育システムの概要、大改革期を契機とした構造・機能の変容、19世紀末以降の工業系高等教育機関の発展と新たな専門職階層の創出などの解明を行った。 2.上記の構造と機能の変容過程において、古典教養の強固な伝統を持たないロシアにおいて中等教育に上から政策的に導入された西欧型の「古典陶冶」が身分制原理を修正しつつ階層秩序を維持する規律化装置としての役割を期待されたことを解明した。 3.教育システムの帝国的編成(民族毎に差異化されたシステム)の概要を示すとともに、西部諸県(ウクライナ西部・ベラルーシ、リトアニア)や沿バルト諸県(ラトヴィア、エストニア)の具体像の概略を示した。特に、各民族地域の支配民族と被支配民族の関係に焦点化した検討した。 4.一般教育型女子高等教育機関及び女子高等医学教育機関の設立・展開過程及びそれらにおける学生生活をめぐる社会史的検討を行うとともに、外国大学での留学の状況についても解明した。 以上の内、1-3については研究成果報告書に掲載した諸論考によってその詳細を提示した。また、4については、本研究以前に行った女子中等教育に関する研究成果とともにモノグラフとして公表する予定であり(ミネルヴァ書房)、そのための執筆を行っている。
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