本年度は、3ヶ年の研究期間の初年度にあたるため、主として本研究における仮説構築のための基礎作業を行った。まず、アメリカ高等教育における「テニュア」制度の歴史的確立過程に関して、先行研究をはじめとする各種文献・資料の所在調査・検索およびデータベース化の作業を、インターネット等を活用して遂行した。 さらに交付申請書に記したように、今年度の具体的な研究の焦点として、第一にアメリカ高等教育におけるテニュア制度の確立に大きな影響を与えたとされるAmerican Association of University Professors(AAUP)の成立過程およびその歴史的・社会的要因の解明と、現在に至る活動内容の把握を試み、各種報告書やBulletin(現Academe誌)の記事・論文の探索・データベース化およびその内容の分析を行った。幸いAAUPは、ホームページを開設しており、リアルタイムの情報が入手できた。AAUPのテニュア制度確立過程に果たした役割としては、第一義的にAcademic Freedom擁護および教員雇用・解雇におけるDue Processの確立の観点にあった。 一方、研究の第二の、焦点としては、テニュア制度をめぐる議論に関するシカゴ大学の事例を分析した。本研究代表者は、在外研究期間(1995年度〜96年度)に同大学Special Collection部において史・資料を収集しており、本年度はこれらの史・資料の整理・データベース化およびその分析にあたった。その結果、AAUPの影響を中心に解釈する場合とは異なって、テニュア制度の確立過程については、大学教員の職階制の確立、さらにそれに伴うアメリカ大学におけるDepartment組織の制度化と、その大学管率運営上の主導権の獲得、および、大学における「教育」(とりわけ学士課程教育)と「研究」(大学院教育を含む)の機能的分化の影響を分析枠組み(作業仮説)、として用いる必要があることが明らかになり、これを、次年度以降の研究の仮説にすることとした。
|