本年度は、3ヵ年にわたる研究期間の最終年度にあたる。前年度までの研究成果によって、アメリカ大学・高等教育史におけるテニュア制度確立過程の背景要因として、大学における「教育」(とりわけ学士課程教育)と「研究」(大学院教育を含む)の機能的分化の動向を読みとることができる、との作業仮説が構築された。それに基づき、テニュア制度の確立過程について、大学・高等教育の思想史におけるeducation・researchおよびteaching・learning関係の概念史的考察という新たなフレームワークのもとで再検討することにした。今年度も引き続き、関係各種文献・資料の所在調査およびデータベース化の作業、さらにそれらの収集・分析を行ったが、フレームワークが上述のように拡大したことに伴い、思想史的検討に必要な文献・資料にもその範囲を広げることになった。本研究は、アメリカにおけるテニュア制度の確立過程を、アカデミック・フリーダムの擁護のために組織されたAmerican Association of University Professors(AAUP)の影響下にみる、という先行研究の限界を指摘してきた。しかし上述のフレームワーク構成のもとで、改めてAAUPの活動の史的展開過程を照射し直す必要が明らかになり、そうした観点から関連文献・史資料の再検討を行った。なおテニュア制度の確立過程の背景としての「教育」と「研究」の機能分化について、昨年度、高等学校やコミュニティ(ジュニア)カレッジの教員におけるテニュア制度の歴史的実態についても考察の視野におさめなければならないことが明らかになった。この問題は、上述のフレームワークとの関係から、教育思想史上の考察の対象として興味深い課題を提起している。この点についても文献・資料調査と収集に着手したが、本格的な分析・考察までには至っておらず、今後の研究課題として残されている。
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