本年度は、アメリカにおける教育経済学、高等教育論、教育財政学等の先行研究をレビューしながら、アメリカ高等教育財政の最近の動向を分析した。第一にアメリカ高等教育の収入構造と最近の変化を検討した。第二に高等教育の収入構造の変化に対して、高等教育機関はどのように対応してきたかを分析した。そして第三に高等教育機関の収支構造の変化に対して、高等教育進学者はどんな影響を受けるかを明らかにした。そして最後にアメリカ高等教育を特徴づける奨学金政策についてまとめた。結果は以下の通りである。 1980年代以降のアメリカ高等教育財政において、連邦政府援助は相対的低下傾向を続けている。他方授業料は各高等教育機関で上昇している。特にこの傾向はエリート私大で著しい。機関の対応については、支出上昇を挙げることができる。また機関の用意する奨学金の額も上昇している。このような高等教育財政状況下において、大学教育投資の個人的経済的利益は1970年代に比べ、上昇しており、学生から見れば高等教育進学は、ハイコストハイリターンな選択といえる。Freemanは1970年代をOvereducatedと表現したが、MurphyとWelchは1980年代をUndereducatedな時代と呼んでいる。彼らによれば、1970年代の一時期を除いて1960年代半ばから大卒労働需要は、増加し、供給の上昇率よりも高い傾向にあった。このような状況で奨学金は、学生と機関の双方にとって重要な意味を持つようになる。これまでとられたアメリカの奨学金政策は、概ね支持されるが、学生ローンプログラムを民間金融機関に任せたことについては批判も多い。
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