本年度は、当初の研究実施計画どおり日本の私立大学の財政についてのデータベースを作成し、それを基に私立大学の収支構造を検討した。研究の具体的な成果は、日本の私大の教育条件と授業料の関係を明らかにした点にある。すなわち、大学教育の質と価格との関係は、日本とアメリカで異なっていることが推測できる。アメリカの場合は、比較的明確で変数間の関係も解釈しやすい。高い授業料は、よりよい大学教育の質を購入するためにある。授業料の高い大学は、入学難易度が高く、教育条件に恵まれ、そして学生に対して大きな付加価値を与えてくれる。日本の大学教育の場合、変数間の関係は、それほどはっきりしたものではないし、それについての研究の蓄積も乏しい。日本の大学の経済学部だけのデータを検討すると、授業料と難易度は逆相関し、授業料と教育条件も逆相関であることがわかる。しかしそれらの逆相関は年によって一定ではないし、相関係数自体もそれほど大きくはない。さらに難易度と教育条件の関係も明確ではない。 日本の大学教育において、価格(授業料)と質(教育条件)が相関してないのは、大学が価格支配力を持っていると考えることもできる。供給者が価格支配力を行使できるのは、消費者の選択が限定される場合である。これは、供給者が他に競争相手を持たない場合最も強い。しかしこのような状況は、18歳人口の減少によって変化せざるを得ない。各大学は学生確保の競争状態におかれ、消費者としての学生は、選択の幅が広がる。そしてこの競争によって、質(教育条件)や人気(難易度)が価格(授業料)に反映することが予想される。
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