本研究では、私立大学の財政データを収集整理して、それを用いて需要減少期における私立大学の収支構造変動を分析し、さらにアメリカの高等教育財政との比較を行った。まず需要動向を分析した。それによると、大学教育費の家計負担は、過去に大きく上昇し、家計所得に対する私大授業料の比率は16%と約20年前に比べ2倍となった。また大卒の初任給と就職率の双方の低下によって、男女とも大学教育の経済的メリットが小さくなっている。よって今後は進学率の上昇は望めないと予想される。次に私立大学の財政を検討した結果、収入にしめる授業料の割合の低下が望まれているにもかかわらず、現実は上昇していることが確認できた。また資産運用収入は、大学によっては高い運用実績を上げていることを指摘することも出来るが、全般的には、運用率の低下によって減少していることも明らかになった。さらに経済不況によって企業や個人からの寄付も伸びていない。このような状況で、日本の私立大学は今後財政的に困難な状況に陥ることが予想されるが、個々の私立大学は学生募集に力を入れなければならないことを指摘した。そしてアメリカの高等教育財政や個々の大学の経済的経営的行動を検討すると、学生募集には奨学金の提供と、授業料の差別化が有効であることが確認できた。最後に私立大学は、個人的利益ばかりでなく、社会的利益をも生み出すので、公的助成の対象なることを理論的に明らかにした。
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