今年度も日本の大学における一般教育の構造をアメリカとの比較で明らかにすることを目的として研究を行った。 そこでの知見は、以下の通りである。(1)アメリカの学士課程の学位であるBAがリベラル・エデュケーションの伝統を引き、BSが職業訓練的な意味合いを強くもっていることを、たとえばコンピュータ・サイエンスという教育プログラムが学位としてBAとBSとの両方を提供していることを例示として、その違いを分析した結果、同じ学士課程のプログラムでもBAはきわめて広い範囲での学習を課しているのに対し、BSではコンピュータ・サイエンスに関連した数学や物理などに特化したプログラムになっていることが明らかになり、ここにリベラル・エデュケーションと遅れてきたものとしてのBSとの違いをみることができる。(2)こうした、リベラル・エデュケーションの伝統は、他方ではハイ・カルチャーとの関連で、近年のマルチカルチュラリズムの中で文化論争の標的とされている。それがアメリカという社会構造の特徴に由来していることを明らかにした。(3)一般教育そのものに対する批判は強くあっても、それが伝統としてのリベラル・エデュケーションの系譜をもつがゆえに、それを守ろうとする一定の社会的勢力があることを明らかにした。 これらにもとづき、今年度は、玉川大学出版部より翻訳書を出版するとともに、3本の論文を執筆した。
|