本研究は、1970年代後半より定住したきた在日ベトナム系住民の家族に関する文化人類学的調査を通じて、祖国ベトナムを含む海外に居住する分散家族とのトランスナショナルなネットワークの実態を把握することをねらいとした。調査は関東、関西地区に居住する在日ベトナム系住民への直接のインタビュー調査と彼らのコミュニティ活動への参与観察によって行った。 平成10年度は彼らのコミュニティ活動のうち宗教的ネットワークについて調査を行った。その結果、カトリック系および仏教系信者の組織の実態や海外まで広がるネットワークが明らかになった。また平成11年度はそれに加え、家族・親族のネットワークを通じて、海外移動や情報交流が活発に行われている実態がインタビュー調査から明らかにした。平成12年度はそれまでの研究を踏まえ、これらのネットワークがどのような意味をなすかについて考察を行った。世代や家族によっても、ネットワークのトランスナショナルな広がりや情報の内容に多様性があることやそのことの家族への影響も多様化していることがわかった。いわゆる「難民一世」と幼少で来日し日本で成長した「難民一・五世」や二世との間で、祖国観、家族観、結婚観、将来への生活戦略、社会上昇への意欲、民族的アイデンティテイのとらえ方等に大きな差があることも明らかになった。 今後は、トランスナショナルなネットワークが個人にどのような影響を与えていくか、特に成長する若い世代が日本に定住する各家族やコミュニティ全体にどのような影響を与えていくか、またそのような背景の中で、日本社会が彼らとどのような共生的関係を取り結んでいくかが課題となろう。
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