本調査研究では、現代アフリカにおける民族紛争地域―特に、西アフリカのガーナ共和国を主要な対象地域として、エスニシティと階層構造との関わりで、それらの軍隊と警察の編成原理がどのようになっているのかを明らかにすることが課題であった。 ガーナの独立以後の約40年の国家政治の歴史は、文民政権と軍事政権との間を揺れ動きながら民主化への道を模索し続けている。これらの政権の交替にともなって、エスニックな対立とそれに対応する国家の政策もまた変化してきた。エスニシティと階層構造という視点から、独立以前から現在までの将校団の形成のプロセスを解明したが、特に、独立以前から1966年のクーデタまでは、ガーナ人化が、それ以降にはアカン化というプロセスを言語政策と国家建設との関わりで示唆した。また、政治を風刺した漫画をとりあげてエスニックな対立とそれに対応する政治文化を分析した。さらに、暫定国家軍事評議会(略称PNDC)課長のローリングス空軍大尉(現在、大統領、1981-92年)によって殺害された軍人たちに関する人権団体の極秘文書を収集したが、これらの資料をもとに民族殺戮(ジェノサイド)の実態を解明している。また、軍部の政治的介入は、1960年代なかば以降、また、1970年代から1980年代を経て、90年代においても続いている。軍部の政治的介入及びその結果としての軍事政権、軍事主導型の輩出はアフリカ現代政治の特徴であるが、新しい社会学のジャンルとしての軍事社会学の課題と展望について概観した。これは、軍隊と警察の編成原理のなかでも、エスニシティと階層構造のみならず、ジェンダーと階層構造との関わりで行なった聞き取り調査―特に、軍隊と警察の家族・親族調査―に発展した。さらに、研究発表、研究業績等では、三田社会学会(1999年7月10日、於・慶應義塾大学)において、「現代アフリカの民族と紛争」と題して発表を行った。また、『世界民族事典』(弘文堂、近刊)において、ガーナ共和国を中心とする民族集団の概要を約100項目にわたって執筆した。
|