本研究は、高齢者の意義ある老後の形成の仕方と、背後にある文化体系の理解を目指した文化人類学的研究の一部である。本研究は、アメリカ中西部に点在する小都市において、どのように高齢者の扶養と自立が達成されようとしてきたのか、を歴史的変化と、エスニシティ、ジェンダー関係、家族周期などに考慮しながら解明する。 本課題に先行する課題においては、高齢者を含める家族とその歴史的変化を示す資料を用いてきた。しかし、高齢者を含む家族は地域社会の中でも一部である。高齢者の存在を実際の生活時空の文脈でとらえることが必要となる。そのため、本年度において、当該小都市すべての家族を対象にして、異なる年次(1850年から1910年まで)に記載されている家族をセンサス資料から追跡し、これまで培ってきた技法を活用して、図式化し、自立・扶養の形態変化を分析する基礎資料として整備した。1850年から複数年次追跡できたケース数は28、1860年からは85、1870年からは64、1880年の第1街区から45、第2街区から90、第3街区から53、第4街区から78で、計443ケースである。この資料からいえることは、扶養の問題は、親子関係の視点からだけでみてはならない点である。その根拠は、子どものいない夫婦の存在、そして、結婚しないで生涯を暮らす人々の存在が少なからず観察できたからである。そのため高齢者の扶養の問題と、自立精神の支え方が異なる世代間にあるとともに、必ずしもそれだけでなく、自助と、同世代の間にもありえたことが理解できた。 他に、家族の居住する位置を知ることで、新族関係の分布図及び、家族周期による移動の在り方から、扶養と自立の問題への接近を試みた。そのため、居住地確認が困難な周辺農場地域については、新たな資料の交差を必要とするため、当初の研究計画を縮小せざるをえなかった。
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