本研究は、高齢社会における意義ある生涯の形成の仕方と、背後にある文化体系の理解を目指して、扶養と自立の問題を、アメリカ小都市の地域生活の歴史的変化、エスニシティ、ジェンダー関係に考慮しながら文化人類学的・歴史民族誌的に究明するものである。 初年度は、資料を個人単位だけでなく、家族と世帯を単位とした分析にも使用できるようにした。この成果によって、ある程度の数の家族が数年間の内に移動し、1900年1910年頃から数世代にわたって定住している家族が増加する傾向にあることが判明した。移動・定住と扶養との関係を考察する必要性から、ハウスごとに色分けした各種変化地図を作製し東部出身者のヤンキー系とポーランド系の分布の対照性を明示できた。 第2年度は、家族の移動(転居)と自立・扶養の関係を明らかにするために、異なる年次で追跡可能な7つの家族について分析した結果、市内での転居は家族周期による家族構成変化だけでなく、家長の年齢、財政的自立などと関連していることが明らかになった。また、地元の歴史家が集成した墓場記録を用いて、一般的に確定困難な「女性の移動」の実態を旧姓に着目し埋葬慣行からみると、母娘間の密接さがアングロサクソン系で、ポーランド系よりも顕著に現れる傾向があり、娘の一人が老親のもとに残る傾向との関連が示唆された。 最終年度(平成12年度)では、高齢者を含む家族を地域社会の文脈でとらえるため、当該小都市すべての家族を対象にして、異なる年次(1850年から1910年まで)に記載されている家族をセンサス資料から追跡し、図式化し、自立・扶養の形態変化を分析する基礎資料を集成した。この資料から子どものいない夫婦、結婚しないで生涯を暮らす人々の存在が少なからず観察でき、扶養の問題には、親子関係からだけでなく、同世代間及び自助の視点からの分析も必要であることが再確認できた。この集成資料の活用が求められる。
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