平成12年度は、本研究に関する理論及び実践双方で具体的な進展がみられた。理論に関して、人類学者のフィールドワークに基づく成果は、民族誌という形態に限定されないことが明確になったことは重要である。特に本年度の課題であった「アフリカを題材とした大衆文学」と「民族誌」との記述の比較を通じて、フィールドの現実やフィールドでの人類学者の行為は、文学的(あるいは音楽、演劇等の芸術的)な想像力に媒介されることで、民族誌が客観性の名のもとに縮小・消去してきたフィールドのリアリティを表現することが可能であることを考察した。また、民族誌を諸民族の文化記述のテキストとしてみるよりも、近代の人類学という学問が要請した特殊な言説タイプであるという点にも言及した(平成13年度中に学術雑誌等に論文として掲載予定)。実践面に関しては、アフリカの開発や援助に人類学者がどのように関われるのかという問題を市民の参加も含めた「スワヒリ語」講座(タンザニア人講師との共同)の開催を通じて検討した。ジャンルを越えた人々の参加によって分かったことは、JAICAやNGO等の開発援助従事者は現地での経験や現地の人々への貢献など現場志向が強いが、自らの活動が現地の文化をどのように表象しているのかについて理論化しようとはしない。一方、学術的な領域の人々は文化理論の必要性を彼らに認識させることに成功していない。同じアフリカや同じ現地を語る場合でも、まったく違った世界がそこには存在しているかのようだ。この状況はすぐ変わるとは思えないが、無意識的に変わるものでもない。来年度は熊本市を中心として大学内外の異なる専門領域のアフリカ関係者が集まる機会をできるだけ増やしたいと考えている。
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