今年度は、本研究の最終年度にあたる。まず、1.今年度の研究実績2.研究全体から得た知見3.今後の研究課題の順に概要を述べる。 1.今年度は、ボクシングを中心にアフリカ及びアメリカン・アフリカン文化表象に関する資料を収集し研究を行った。特にアメリカにおけるヘビー級の歴史はアメリカの移民の歴史を強く反映しているが、これはアメリカの黒人たちにとってはアフリカとの、アフリカの黒人たちにとってはアメリカとの結びつきを可視化させる領域として、黒人たちの音楽と同様にしばしばその歴史自体が読み替えられていることが理解され、興味深かった。 2.本研究は、従来それぞれが独自の境界をもっていると考えられてきたアフリカ文化に対する文化人類学的、民族誌的関係性と芸術、文学、スポーツなどの領域における関係性を節合することにあった。本研究において新たに得られた知見は、従来の一つのコミュニティを詳細に記述する民族誌のスタイルに異質な言説を組み込むことで、民族誌をより動的に、また、複数のコンテキストを同時に喚起できるテキストへと変えることができるという具体的な見通しであった。人類学が中心的なテーマにしてきた文化的規則に関する言説と旅行記や小説、芸術、スポーツをめぐる言説は異なってはいるが部分的には相互に領有されており、いわばミメティック(模倣的)な関係をつくりながらリアリティ(現実)を生成させており、そのリアリティをいかに記述するのかを主題化するという方向性を確認できた。最後に、本研究を通じて痛感したのは、例えば、これまでは人類学者が殆ど研究しようとしなかった、水俣病として表象されてきた水俣市民のアイデンティティの問題などを新たに主題化するべきであるということだった。 3.本研究は、多岐の領域に渡っているため個人の力で文化人類学とそれ以外の領域を節合していくのは困難である。基本的な方向性は確認されたので、今後は共同研究のスタイルをとりながら、各領域の専門家との共同作業が不可欠である。共同研究は、まずは国内での研究者ネットワークを構築し、さらには国際的なネットワークへと拡張する必要がある。
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