研究の一つの目標は、アフリカに関する文化表象の基礎的な研究を通じて、研究代表者である慶田が専門としている文化人類学的な言説を他の領域の言説へと転置させたり、それとは逆に非人類学的なアフリカに関する記述を人類学的な民族誌の内部へ再配置することを通じて、人類学、文学、開発援助等なんらかの形でアフリカに携わってきた人々の諸言説を節合し、新たなアフリカへの関わり方を模索するための基礎研究を行うことだった。4年間の研究、そしてその後の1年の予備期間を通して、従来のコミュニティ研究型の人類学的フィールドワークとは異なる研究の方向性に関して理論的な足場を作ることができたし、また、日本(特に熊本)におけるアフリカ滞在経験者、市の国際交流会館、地域在住のアフリカ人との交流なども行うことができた。特に平成13年度の終盤から関わり始めた水俣での「もやい直し(和解と再生)」と南アフリカのポスト・アパルトヘイトの「真実と和解」の実践を結びつけることができるような視点を得ることができたのは、この基礎研究の大きな成果である。また、全体として次ののような成果を上げることができた。(1)文化人類学の民族誌及びフィールドワークの限界と可能性を確認した。(2)文化人類学の言説と他の隣接領域の言説との親和性と異質性を具体的に検討した。(3)日本とアフリカを文化的に媒介するために文化人類学者が果たすべき役割(特に国際地域コーデイネーターとしての役割)を今後の方向性として見いだすことができた。 本研究は、多岐の領域に渡っているため私個人の力で実践的な研究を継続していくことは困難である。今回の基礎研究を通じて基本的な研究の方向性は確認されたので、今後は共同研究の形態で各領域の専門家との連携が必須となる。共同研究は、まず第一に国内の研究者ネットワークの構築から始め、次に国際的なネットワークへと拡張していく必要がある。
|