研究課題/領域番号 |
10610314
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研究機関 | (財)元興寺文化財研究所 |
研究代表者 |
伊達 仁美 財団法人 元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (00150871)
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研究分担者 |
植田 直見 財団法人 元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (10193806)
山内 章 財団法人 元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (90174573)
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キーワード | 量産型絵馬 / 土人形 / 大津絵 / 下地 / 色数 / 泥絵彩色 / 保存状況 / 材料の分析 |
研究概要 |
本研究は、絵馬・土人形・大津絵に使用されている彩色材料・配色・色数を調査し、その時代的な特色や共通点について分析を行ない、次のような成果を得た。絵馬は船図・芝居図・伊勢参宮図など量産型のものを対象とし、人形は伏見人形の流れをもつ各地の郷土人形を調査した。なお、人形については制作年代の記載がほとんど無く、様式や作風から近世期の作と推測できる作品を対象とした。 絵馬の彩色下地は時代によって黄土から胡粉へ移行する傾向があることは既に確認ができている。人形彩色の下地は土の地色と下地絵具とがあり、絵馬と同じ視点での考察は難しいが、下地色を土色系と白色系で分類すると、それぞれに使用される彩色絵具は絵馬と共通点が認められる。例えば、黄土下地の場合、赤色系の彩色は丹やベンガラが多用され、藍や草緑を彩色する場合は、胡粉を塗った上に彩色するか、具にして用いられる。また、金粉の代用でまがい粉が使われることや近世末以降青色彩色に合成群青が多用されるなど、時代的な特色を含め類似点が多い。 大津絵については、調査点数の少なさから比較分析できる状況にないが、近世の作と推測される作品を調査した結果、配色に関して絵馬や人形との共通性を見出した。それぞれに使用されている絵具は、胡粉・黄土・藤黄・石黄・朱・丹・ベンガラ・藍・合成群青・緑青・まがい粉などである。 また、それらを保存面から分析した結果、多くの作品に絵具の剥離・剥落が発生していた。これらは製作された後の保管状態により状況が異なってくる。絵馬は社寺の拝殿や絵馬堂など比較的に外気の影響を受けやすい場所に掛けられることが多く、そのため絵具の剥離・剥落を生じたと考えられるものが多かった。人形に関しては室内で保管されていたものが多いと思われるため、外気の影響を受けた破損や劣化は少ないが、彩色表面に塗られた乾性油のような光沢のある塗料の引っ張りにより、絵具が剥離し、更に捲れ上がったような状況を呈しているものが見受けられた。更に愛玩具として取り扱われたためか、いわゆる使い傷み的な破損が認められた。大津絵については、近世期の作で現存するものは、変色や褪色は認められるが、状態は比較的に良好であった。
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