3年計画の第2年度目にあたる今年度は、前年度までに収集した史料の分析・整理と、それに関連する史料の現地調査を中心に研究を進めた。三菱経済研究所附属史料館所蔵の「船員履歴書」は、明治20年代に日本郵船に組織された船舶と船員の状況を克明に伝える貴重な史料てある。ここには、船員の職種・等級・免許種類・年齢・出身地など多くの情報が記録されている。勿論これが、近代化の過程を歩み始めた日本海運業のすべてを表現するものではない。しかし、当該期の日本で最も主要な海運会社の構成は、当時の日本海運業を正しく反映するものであり、また、船員たちには熟練の技術が要求されたので、その状況には幕末段階に熟成された近世海運業を引き継ぐものがあると考えられた。船員の出身地を分析することにより、近世末、船乗り稼業を渡世とする者が集住する地域社会が明確に浮かび上がってくるのではないだろうか。そうした予測のもと、今年度は同史料をデータベース化する作業を外部委託により実施した。 「船員履歴書」を概観し、また、他に収集した国立公文書館所蔵の「海員調査票」などを併せ見るならば、明治中期の船舶数や船員状況にいくつかの拠点地域が形成されていたことが窺い知れる。その一つに瀬戸内海地方がある。今年度は、本科学研究費以外の予算にも拠りながら、岡山・広島・愛媛・大分方面への現地調査を実施した。その結果、客船帳や水主の他国稼ぎ記録など、貴重な史料の所在を突き止めることが出来た。次年度は、この調査範囲を広げると共に、数ある史料群の中から的を絞ってフィルムによる史料収集を進めていきたい。
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