本年は、文化年間の蝦夷地における日本とロシアの紛争がもった、政治史的な意義を検討することを課題とした本研究の最後の年なので、(1)関連史料を補充的に調査すること、(2)収集した史料を分析し研究論文を作成すること、(3)研究成果報告書を作成すること、という課題に取り組んだ。 (1)については、県立長崎図書館所蔵の長崎奉行所関係史料を調査し、幕府がオランダ商館長ヅーフから聞き出した情報を中心に収集した。(2)については、文化4年に諸方面から出されたロシアとの紛争の解決策を集めて検討し、広範に登場してくるロシアに貿易を認めることにより事態を解決しようとする、いわば限定的な「開国策」の存在を抽出し、その歴史的な意義を論じた「文化四年の開国論」、鎖国を祖法とする規範や観念の成立・確立の歴史的過程にとって、文化年間の日露紛争がもった意義を論じた「対外関係の伝統化と鎖国祖法観の確立」の2論文を公表した。(3)については、研究論文編として、本研究による成果でありこの研究期間に公表した論文3編と、未発表の「寛政改革期の蝦夷地政策をめぐる対立について」を収録し、史料編として、この間に収集した史料のうち、重要と判断されしかも活字化されていない史料の全文を収録した『研究成果報告書』を作成した。 文化4年の武力衝突をともなう日露紛争に関しては、その実態と歴史的な意義について、この研究期間で公表した論文によりかなりの程度明らかにすることができた。しかし、史料の調査と収集した史料の検討が、文化4年の紛争にとどまり、文化10年まで続くゴローニン事件にまで至らなかった。
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