本研究の目的は、近代日本形成期の明治時代を対象として、東北社会の独自性を自己認識した「東北論」関係の文献を単行本・雑誌に限定して調査収集し、その詳細な分析を試みることであった。実施計画として、(1)青森・秋田・山形・岩手・宮城・福島の東北6県及び東京都内の図書館・研究機関における「東北論」関係文献の調査収集、(2)「東北論」関係文献のデータ・ベース化、(3)「東北論」関係文献の分析を通した、近代東北意識の実態と構造の考察、をあげた。 研究成果としては、(1)東北6県の県立図書館で関係文献の調査収集を順次行なうとともに、重要な市立図書館でも調査収集を行なった。また、東京大学法学部近代日本法政史料センター(明治新聞雑誌文庫)において「東北論」関係文献の調査収集をすすめた。(2)そうした調査収集をふまえて、「東北論」関係文献のデータ・ベースを作成した。(3)また、収集した「東北論」関係文献の分析を通して近代東北意識の実態と構造を考察し、第一に後進的・停滞的という東北イメージが固定化されるのは明治後期の1900〜1910年代であること、第二にそのような東北イメージを下敷にして戦後歴史学における東北史が形成されてきたことを明らかにした。 以上の研究成果を、「民衆思想史の意識論」(『歴史学研究』)及び「<東北>史の意味と射程」(『歴史学研究』)の論文にまとめるとともに、単著『<東北>論の世界』(仮題、中央公論新社)として刊行の予定である。 今後は当該テーマを大正期以降に展開して考察するとともに、近代日本の国家アイデンティティ形成の問題として検討を重ねる計画である。
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