本年度の調査・研究は、主に滋賀県の大津市葛川と志賀町木戸・荒川、及び朽木村について行った。葛川では、石造物の調査を中心に行った。所在・分布調査を行い、中世石造物や主要なものについては、データをとり調査カードに記載した。また、昨年の調査で発見された近世前期の霊場絵図や山論絵図については、写真撮影及びトレース図の作成を行った。その他木地師集落であった貫井を中心に、山の民俗に関わる調査も行った。 また、比良山を挟んで葛川の東にあたる志賀町木戸・荒川についても、区有文書を中心に調査を行った。志賀町史編纂室の協力を得て、山の生活や争論に関する近世・近代文書についても閲覧・複写を行った。先年度調査を行った明王院文書や坊村区有文書と併せて検討することにより、近隣村落の山をめぐる共同利用や生活について考える上で重要な素材となるとみられる。特に、薪柴の入会慣行を示すものは、この地域の山をめぐる交流の広がりを考える上で、特に重要な史料群であると思われる。朽木村については、葛川から高島郡に抜ける山越えのルート(コメカイ道)についての聞き取り調査及び実地踏査を行った。このルートは、戦国期の板商売をめぐる葛川と朽木の争論で、若狭街道が封鎖されたために使われたルートであり、若狭街道の抜け道として、中世以来の生活道路としても使われていた道である。また、安曇川の筏流しについても若干の聞き取り調査を行った。現地調査後、中世の比良山の山利用をめぐる葛川と木戸・比良庄の争論について、葛川明王院文書を中心として論文を作成した。 さらに、比良山周辺村落と比較研究する予定の丹波国和知庄については、予備的な現地調査及び研究を行った。区有文書の所在調査や、刊行されている中世の読解作業が中心である。来年度に本調査を行うことで、より研究を深めていく予定である。
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