今年度の出張調査は、山口県文書館で二度にわたって実施し、戦国・豊臣期関係文書の写真撮影や影写本・謄写本・写真帳の閲覧による史料蒐集をおこない、これまでと同様、パソコンのデータベースソフトを利用して、地域別・編年別の整理を進めた。特に、新たに購入したデジタルカメラによって蒐集した文書および花押の画像データは、今後大いに活用したい。また、アルバイトの協力を得て、毛利氏の惣国検地関係史料(例えば『毛利氏御時代八箇国御分限帳』や検地打渡坪付・打渡状・知行宛行状)のデータ入力を実施し、後日予定している惣国検地後の知行宛行いに関する数量分析用の基礎データを作成した。これは、別に作成した毛利氏奉行人発給文書のデータとともに、豊臣期毛利氏の権力構造や領国支配の実態解明のための重要資料になると思われる。 今年度の研究内容としては、継続実施している戦国・豊臣期の貨幣流通と公権力の対応、そして東アジア貿易との関係についての考察をさらに進めた。特に、低品位銭貨ながらも毛利氏領国で広範に流通・通用していた南京銭と、当該期やはり広範の流通・通用が確認できる鍛(ちゃん)に注目し、それら銭貨の流通実態とともに毛利氏や中央政権の貨幣政策の解明に努めたほか、厳島町衆の動向に焦点をあてながら毛利氏の厳島支配の史的展開について明らかにした。そして、これら研究成果は、逐次学術論文として発表した。 また、第一次朝鮮侵略戦争時に法制化された豊臣政権の次夫・次馬・次飛脚・次船制は、毛利氏および小早川氏領国内で数多く検出され、当該期における毛利氏の領国支配の実態を検討する上での重要な素材であるため、これまで継続的に史料蒐集をおこなってきたが、研究期間の最終年にあたり、これまで蒐集してきた史料をすべて網羅し、その歴史的意義について詳しく分析した研究成果報告書を作成した。
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