三ヵ年の研究実施状況と成果は以下の通り。華僑史は華僑自体の研究だけでは解明できず、背景にある政治構造、政治力学の中で明らかにできるとの問題意識に基づき、抗日戦争時期の<国民政府>-<傀儡政権>-<華僑>をそれぞれ自立的存在として相互分析を加え、三極構造として考察した。その際、華僑と国民政府の良好な関係のみならず、矛盾・対立面をも摘出し、歴史の中に正確な位置づけを試みた。具体的には、(1)国民政府の華僑行政と同時に、華僑への影響力や掌握度を、僑務委員会、外交部、国民党海外支部、特務「C・C」系等の動向という多角的視点から明らかにした。(2)国民政府と対抗形態にある汪精衛・南京傀儡政権の華僑行政、僑務機構を歴史開拓的に解明すると同時に、国民政府のそれとの比較検討を通して華僑争奪の構造を追究した。(3)国際ネットワークのみならず、現地国での華僑の位置、孤立・断絶状態にもアプローチし、華僑の自立的な現実的対応を探った。この際、英領マレイ・シンガポールに重点を置いたが、日本政府と日本軍の動向に留意し、抗日戦争の新たな一断面を明らかにした。 かくして、計画通り(1)「重慶国民政府の戦時華僑行政と華僑の動向」(「研究成果報告書」第二章)、(2)汪精衛・南京傀儡政権の僑務機構の実態、及び上海、広州等への帰国華僑の対応(「報告書」第三章)を完成させ、さらに(3)「南京国民政府の華僑行政と僑務委員会」(「報告書」第一章)を加筆・修正・充実させた。今後は不十分な史料を調査・収集しながら、すでに研究を部分的に開始している(イ)日本・植民地台湾・朝鮮の華僑構造、(ロ)日本軍政下の華僑政策と南洋華僑の動向、(ハ)米国華僑の抗日運動を完成させるとともに、さらに(ニ)欧州・南アフリカ・インドの華僑実態とその位置等を解明し、華僑世界構造に果敢にアプローチし、日本国内外の華僑史研究に裨益したいと考えている。
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